引ける辞典
全パターンを「問題 → コンテキスト → 解決 → トレードオフ」の厳密な定型で記述。散文の解説ではなく、設計中に引けるリファレンスです。
LLMを中心とするシステム開発は、プロンプトの工夫で動くデモを作る段階を終え、非決定論的な認知コンポーネントをいかに堅牢なソフトウェアシステムとして制御するかという工学の段階に入りました。本番運用でエージェントが壊れる原因の多くは、モデルの推論能力ではなく、無制限な自律ループの暴走、コンテキストの破綻、状態の喪失、ガバナンスの欠如といったアーキテクチャの問題です。
かつて分散システムの再利用可能な知見に名前を付け、共通言語を与えたのがクラウドデザインパターンでした。本カタログは同じアプローチをAIエージェントに適用します。それぞれのパターンは特定の障害モードに対する検証済みの解決策であり、名前・問題・解決・トレードオフの定型で整理されています。
| カテゴリ | パターン | ひとことで |
|---|---|---|
| ワークフロー | Prompt Chaining | タスクを直列のLLM呼出に分解し、段間に検証ゲートを挟む |
| ワークフロー | Routing | 入力を分類し、専門化された処理経路へ振り分ける |
| ワークフロー | Parallelization | 独立サブタスクの並列実行や多数決で速度・確度を上げる |
| 自律エージェント | ReAct | ツールの実行結果を根拠に、推論と行動をループさせる |
| マルチエージェント | Orchestrator-Workers | 中央のLLMが動的にタスクを分解し、ワーカーへ委譲する |
| 品質・評価 | Reflection | エージェント自身に成果物を批評・修正させる |
| 品質・評価 | Evaluator-Optimizer | 生成と評価を別のLLMに分離し、合格まで反復する |
| 品質・評価 | Adversarial Review | 成果物を破綻させにいく敵対者を立て、頑健性を検証する |
| 信頼性・回復力 | Budget Guard | 反復回数・時間・トークンの上限でループ暴走を遮断する |
| 信頼性・回復力 | Checkpoint & Resume | 実行状態を永続化し、中断からの再開を可能にする |
| 信頼性・回復力 | Retry with Feedback | 失敗したツール呼出のエラーを差し戻し、是正した再試行を生成する |
| 信頼性・回復力 | Self-Heal Loop | コミット済みの多段作業を補償・再計画で回復する |
| 安全・ガバナンス | Approval Gate | 不可逆アクションの直前に人間の承認を構造的に挟む |
| 安全・ガバナンス | Layered Guardrails | 入力・ツール呼出・ツール応答・出力の4層で検証する |
| コンテキスト・記憶 | Context Triage | ループへ渡す前に、関連する情報だけを決定論的に切り出す |
| コンテキスト・記憶 | Context Compaction | 蓄積した文脈を閾値到達時に圧縮し、上限到達と品質劣化を防ぐ |
| コンテキスト・記憶 | Memory | 事実・経験をセッションをまたいで永続化し、関連想起する |
さらなるパターン(英語版の検討を含む)は README のロードマップ を参照してください。
本カタログは Anthropic「Building Effective Agents」、Microsoft「AI Agent Orchestration Patterns」等の一次資料と整合するよう名称を選び、異なる呼称は各パターンの「別名」に併記しています。本カタログの独自価値は、(1) 厳密なカタログ定型、(2) クラウドデザインパターンとの系譜の明示、(3) 日本語での体系化、の3点です。